ひらがなの連綿というのは、行書や草書において縦書きの文章を書く際、ひらがな同士を繋ぐことをひらがなの連綿といいます。
例えば、「林立するとき」を2パターン書いてみました。
左のパターンは「する」「とき」と2字連綿の塊が2つ、右のパターンは「するとき」と4字連綿の塊が1つあります。
どちらも正解ですが、連綿する文字数が増えれば増えるほど難易度が増していくので、初心者の方はまずは2字連綿から練習をしてみると良いかなと思います。
ひらがなの連綿は、硬筆書写検定においては準2級からしてもよいということになっています。
ですので今回は、硬筆書写検定において「こういうひらがなの連綿はNGが出やすい」というひらがなの連綿例をご紹介していきたいと思います。
結びを大回りせず、ショートカットしてしまう
私が2018年頃、検定協会主催の硬筆準1級の講習会に参加したときによく指摘されたのが連綿は「大回りする」です。
例えば「なる」の場合だと、赤い矢印で示した箇所です。
△は大回りせずショートカットしてしまった例で、○が良い例です。
ちなみに大回りをするというところが大切なだけであって、結びの形は様々な形があるので、それは自由です。
次に「ます」の場合だと、同様に赤い矢印で示した箇所です。
△パターンは良くない例で、回り方が足りません。
ちなみに○パターンの「ま」ですが、三画目のタテ線が右寄りに接筆していると思うのですが、意外にこれが字形の安定感をもたらすうえで大事なことだったりします。
また、「何かから”す”」という連綿のときは、「す」の1画目の横線は、↑の例のように下に反るとより美しく見えます。(です、ます、さす など)
連綿を意識しすぎて、字形が乱れる
これも非常に良くある例です。
字形の乱れ方をいくつかご紹介すると、
例えば「それ」の赤い矢印で示した箇所が、△パターンのように右にクイっとせず、そのまま流れるように書いてしまうのが良くない書き方です。
他の例として、「てし」「れて」があります。
これも慣れていないと、△パターンのように右にクイっとするのを省略してしまい、下に流れてしまう人が多いです。
因みに以下の「てし」は、どちらの例もOKです。
何かから「し」への連綿の場合、右のパターンのように「し」を書き始める際、クイっとワンクッションいれても良いですし、入れなくてもOKです。
「れて」は古筆をみてみると、△パターンのような雰囲気に近いもので書かれているものがチラホラあるのですが、あまりマネしないほうが良いです。
書写は可読性優先であって、誤読させる可能性があるような連綿は採用しない方が良いです。
誤読させる可能性がある連綿の代表例は、例えば「あって」だと、
以下の真ん中の例です。ぱっと見「あそ」に見えてしまいませんか。
これが誤読させる可能性がある連綿例で、個人的には避けた方が良いかなと思います。
(これがかな創作だったら全く問題ないです、かな創作は可読性優先ではないので)
以上の3パターンのうち、無難なのは連綿をしない一番左のパターンで、もしどうしても連綿をしたいのであれば、一番右のパターンの「あっ」を連綿すると良いかなと思います。
次に「ける」でよくある字形が乱れる例が、「け」の3画目がビョイーーーンと、どこまでも伸びてしまう例です。
「ける」だけでなく、「け」から何かに連綿をするとき、△パターンのように伸びがちです。
これの対処法としては、そもそも「け」から何かへの連綿はしない、ということを意識すれば良いかなと思います。
ひらがなの連綿の原則は、
「やるなら絶対に美しく決める。美しくならないならそもそもやらない。」
です。この意識が徹底できれば、プロです。
他には、「何かから”く”」への連綿も注意してください。
赤い矢印で示した箇所において、○パターンのようにカクっとワンクッション挟まないといけません。
「ゆく」の連綿を紹介しといてアレですが、「ゆ」から何かへの連綿は難しいので、避けた方が良いです。リスクが高いです。
「この連綿は難しいかどうか?」という嗅覚は、「この人って信用できる人なのかな?」という嗅覚に似ています。厳しめに嗅ぎ分けるくらいが丁度良いです。
次に「する」の字形の乱れる例は、△パターンのように結びが上に上がりすぎてしまい、青矢印の箇所が長く伸びすぎてしまう形です。
そもそも「す」は、「寸」が字源なので、青矢印の箇所が長く伸びてしまうということがよくありません。
単体では問題なく書けるのに、連綿になるとそれに気を取られて字形が乱れてしまうというのは、純粋に書き込み不足です。とにかく書き込みまくって慣れましょう。
同じような例でいえば、「すく」が挙げられます。
赤い矢印で示した箇所が短くなってしまうパターンです。
連綿線の洗練度が低い
ひらがな同士を繋いだときに生じる線のことを連綿線と言いますが、その連綿線というのは、ピンっと張っているように、自然な運筆リズムで生じる太さ・細さで表現されなければなりません。
例えば「ある」で解説をすると、よくある連綿線の間違い例が
・太すぎる
・内側にふくらんでしまう
・震えてしまう
の3つです。
内側にふくらんでしまうという間違い例は、「ある」の場合は間違いなのですが、逆に内側にふくらむと良い連綿例があったと思うのですが、ぱっと思い出すことができません😞思い出したら追記します。
基本的にひらがなの連綿というのは、○パターンで示したように外側へ張り出す力が働いています。
そもそも連綿線というのは、本来は存在しない線であるので、基本的には線が細くなります。
どうすれば洗練されたひらがなの連綿ができるかと言われれば、結局のところ書き込むしかないのですが、「どこからどこまで書くのか」が自分の中で明確になっているかどうかが重要です。
連綿が変なふうになってしまう人は、この「どこまで」というのが明確になっていないまま、つまり着地地点が定まっていないまま連綿しようとしてしまうので、不安定な連綿になってしまいます。
ちなみにひらがなの連綿は難しい技術なので、1ヶ月そこらで身につけられるわけはなく、思い通りの連綿が表現できるようになるまでにかかる期間は、半年〜1年は見た方が良いです。
あとは練習は試行錯誤が必要です。押しても駄目なら引いてみればどうか精神が求められます。
難しい連綿は避ける
失敗する確率が高い連綿はそもそもしないというのが鉄則です。
例えば、連綿の旅が長い距離になる場合です。
以下「かに」の場合は、右はしから左はしへの連綿は避けた方が良いです。
距離が長ければ、途中で事故が起こる確率が上がります。
あとは、上でも紹介しましたが「ゆく」「ける」も難しいので、避けた方が良いです。
形連にするのか、意連にするのか決めておく
ひらがなの連綿というのは、形連と意連の2つがあります。
形連(けいれん)は、今まで紹介してきたように、ひらがな同士が目に見える線(実線)で繋がっている連綿のことで、
意連(いれん)は、ひらがな同士が目に見えない線(虚線)で繋がっている連綿のことを指します。
結論から言うと、初心者の方はまずは形連から練習することをオススメします。
形連がマスターできたら意連にチャレンジしてみると良いです。
意連の先に形連があるのではなく、形連の先に意連があります。
もし意連をしようとする場合、連綿される側のひらがなに受けの連綿線を表現することで、意連の意思が伝わりやすいです。
・○パターンが、「む」の1画目に受けの連綿線を表現した例です。
・△〜○パターンが、「あ」の払い先が「む」の1画目の書き始めを目指しているので、即間違いというわけではないのですが、字形がお上手でない限りは、避けた方が良いと思います。
・△パターンは、「あ」の払い先が「む」の1画目を目指せていないので、よくありません。
(ただし、払った先に必ず次の1画目がないといけない、というわけではなく、あくまで意連をするときのお話です)
「たや」も同様です。
さて、「さて」の連綿を意連と形連、両方のパターンで書き分けてみました。
以下、どちらともOKなのですが、「さて」の連綿の距離が短いので、こんなに短いなら形連で繋いでしまえば?と私は思ってしまいます。
「さて」が文章の中で2回登場したので、変化をつけるためにあえて意連にしたとかなら納得なのですが、初心者の方はよくわからない意図の意連が散見されます。
一番よくないのは、「さ」の3画目をとりあえず連綿っぽくサラ〜と流しておいて、よし、じゃあ「て」はどこから書き始めようかな〜と考えるような書き方はよくありません。
こういう書き方をする人は、連綿の本質がわかっていないタイプの人と判断されます。
突発的な連綿は避ける
ひらがなの連綿というのは、初心者のうちは、突発的な連綿は避けた方が良いです。
事前に文章中に○をつけるなどして、連綿をする箇所、しない箇所、これを計画することが大事です。
なぜ突発的な連綿は避けた方が良いかというと、突発的な連綿は心の準備が整っていないので失敗しやすいからです。
事前に計画しておけば心の準備が整っているので、成功する確率が高いと言うことです。
ちょっと言葉がキツイですが、
・自分の実力が高いと勘違いしている方
・プライドが高い方
・そういうことすらも面倒だと感じる方
・自分の実力の無さを認めたくない方
は、そういう計画をすっ飛ばしやすく、背伸びしてプロっぽいことをしようとして失敗します。
プロの水準は、そのマインドの先には存在しません。
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